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給与所得者の休業損害に関する諸問題

第1 はじめに

 1 本稿では、給与所得者の休業損害に関する問題について説明します。具体的には、①有給を使用した場合に休業損害が認められるのか、②有給休暇を喪失した場合に休業損害として認められるのか、③休業による昇給の遅延・賞与の減額が休業損害として認められるのかについて説明していきます。

 2 上記①~③の説明に入る前に、給与所得者の休業損害について説明します。

休業損害とは、交通事故による負傷の治療で、作業又は不十分な就労しかできなくなった場合、治療期間中に得たはずの収入を失ったことによる損害です。会社勤務の給与所得者(以下、「給与所得者」と言います。)が入通院のために仕事を休んだ場合の休業損害は、「事故前3か月の現実収入を実労働日数で除して算出した金額」×「実際の休業日数」により算出されるのが一般的です。[1]

第2 ①有給を使用した場合に休業損害が認められるのか

 1 問題の所在

   入通院のために仕事を休んだものの、年次有給休暇(以下、単に「有給休暇」と言います。)を使用した場合、休業損害の発生は認められるのでしょうか。労働者が有給休暇を使用した場合、「使用者は…有給休暇の期間については…平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金…を支払わなければならない」(労働基準法39条9項)ため、損害がないようにも思われるため問題となります。

 2 裁判実務における取り扱いと裁判例の紹介

  ⑴ 裁判実務における取り扱い

    かつては、事故のために有給休暇を利用した場合は、表面上は減収がないように見えるため、財産的損害を否定して慰謝料で斟酌する裁判例も少なくありませんでした。しかし、近時の裁判例の大勢は有給休暇を使用した期間についても休業損害の発生を認めています(有給休暇を損害として認めた裁判例としては、大阪地判平成30年6月22日・自保ジャーナル2030巻47号、仙台地判令和1年6月26日・自保ジャーナル2054巻123号、東京地判令和4年2月18日・交民集55巻1号180頁等があります。)。[2]

    その理由としては、有給休暇を使用することによって減収は生じていないものの、本来他に利用できた有給休暇を事故のために使用しなければならなかったのであり、失った余暇等のための時間は財産的価値を有することが挙げられます。[3]この考え方を採用したと思われる裁判例として、東京地判平成14年8月30日・交民集35巻4号1193頁がありますので、以下で紹介します。

  ⑵ 東京地判平成14年8月30日・交民集35巻4号1193頁

   〔事案の概要〕

    平成12年9月1日に発生した交通事故により受傷した原告が、平成12年9月中旬及び10月上旬ころに合計13日間の有給休暇を利用して自宅で療養しました。そこで、有給休暇を利用した期間の休業損害(37万1174円)が認められるかどうかが問題となりました。

   〔裁判所の判断〕

    裁判所は、「原告は、本件事故のために被った傷害のため自宅で静養するため、合計13日の有給休暇の利用を余儀なくされたところであり、有給休暇の財産的価値にかんがみ、上記13日間について損害が発生したと認めるのが相当である。」と判断しました。

そして、原告が平成12年(事故の起こった年)には給与所得として1042万1448円の収入を得ていたことを認定した上で、有給休暇を使用した13日間について、合計37万1174円(算出式は、1042万1448円÷365日×13日)の休業損害を認めました。

第3 ②有給休暇を喪失した場合に休業損害として認められるのか。

1 問題の所在

  第2では、欠勤による不利益を回避するために有給休暇を取得した場合に、休業損害が発生するかという問題について説明してきました。では、事故による欠勤によって有給休暇取得の要件である全労働日の80%以上の出勤という条件(労働基準法39条2項参照)が満たせなかったことにより有給休暇を喪失した又は一部喪失した場合、その喪失分を損害として請求することはできるのでしょうか。

 2 裁判例の紹介

   過去の裁判例には、「治療時間を確保する目的で、かつ、欠勤を免れるために有給休暇を現実に費消したのではない以上、損害として考慮するのは相当ではなく、同年度において自由に休暇を取得することができなくなったという観点から慰謝料の考慮事情とする」(東京地判平成13年12月26日・交民集34巻6号1680頁)とした裁判例もありました。しかし、近時の裁判例(さいたま地判令和1年9月5日・交民集41巻5号1210頁)で、有給休暇を付与されなかった(喪失した)ことに着目して休業損害を認めたものがあるので紹介します。

 ⑴ 事案の概要

   原告は、交通事故に遭い、平成27年12月20日~平成29年5月21日まで369日欠勤しました。その結果、平成29年度及び平成30年度にそれぞれ20日分の合計40日分の有給休暇を取得できませんでした。そこで、原告が有給休暇を取得できなかったことを理由に休業損害として34万5360円を請求しました。

 ⑵ 判示事項

   裁判所は「有給休暇には財産的な価値を認めることができる。したがって、有給休暇を付与されなかった損害として、34万5360円(「有給休暇一日当たり8634円」×「40日」)を認めるのが相当である。」

 ⑶ 若干の考察

   裁判所は、「有給休暇には財産的な価値を認めることができる」としていますが、何を根拠に財産的価値を認めているのでしょうか。この点、「有給休暇はその日の労働なくして給与を受けるもので労働者の持つ権利として財産的価値を有する」とした裁判例(東京地判平成6年10月7日)があるところ、この考え方が基礎にあるのかもしれません。

    また、今回の裁判例と似たような判断をした裁判例として、大阪地判平成20年9月8日・交民集41巻5号1210頁があります。当該裁判例は、原告が事故により「平成12年2月14日から同年12月3日まで休業したことにより、本来は20日間付与される年次有給休暇が、平成12年9月1日発生分として10日間、平成13年9月1日発生分として10日間のみ付与された」という事実を認定した上で、特に理由を説明せず「こうした有給休暇減少分も本件事故による損害と解することが相当である」として、28万7880円(「日額1万4394円」×「休業日数合計20日」)休業損害として認めました。したがって、有給休暇を喪失した場合には、喪失した有給休暇分を休業損害として請求できる可能性が高いと思われます。

第4 ③休業による昇給の遅延・賞与の減額が休業損害として認められるかについて

 1 休業による昇給の遅延が休業損害として認められるか

   事故前に月2万円の昇給が予定されていたところ、事故による長期欠勤のために昇給が据え置かれた事案で、昇給の遅れを解消するために必要な期間(原告は当該期間が10年間と主張しましたが、認められませんでした)に応じた減収分(月額2万円×5年間)を休業損害として認めた裁判例(横浜地判平成9年10月30日・自保ジャーナル1238号)があります。

   裁判所は、「他の同僚と比較して給与面で差が生じていること、据え置かれた昇給を回復する措置は未だ取られていないが、賞与は増額しており、年収としては減額にはなっていないこと」を認定しました。そのうえで、「原告は本件事故により昇給が行われなかったことによる減収があり、現在のところ昇給の遅れは解消されていないが、右解消に10年間を要することを認めるに足りる証拠はなく、昇給の遅れが解消されるには5年間を要するものと認めるのが相当である」と述べ、月2万円の5年分に相当する120万円を休業損害として認めました。

 2 賞与の減額が休業損害として認められるか

   会社勤務の給与所得者が欠勤した場合、欠勤した日に応じて賞与が減額されることがあります。この場合、事故による欠勤によって賞与が減額されたのであれば、減額分が休業損害として認められます。[4]なお、賞与が減額されたことを立証するにあたっては、①賞与が支給されていた事実、②実際に賞与が減額された事実を立証する必要があります。その際、①については、賞与が給与規定等によって定められていることを用い立証し、②については、賞与減額証明書を用いて減額の事実を立証することになります。[5]

                                    以上


[1] 「被害者側弁護士のための交通賠償法実務」345頁参照

[2] 「被害者側弁護士のための交通賠償法実務」345頁参照

[3] 「交通事故事件の実務(改訂版)-裁判官の視点-」95頁参照

[4] 「被害者側弁護士のための交通賠償法実務」346頁

[5] 同上346頁

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