ドライブレコーダーと交通事故
ドライブレコーダー映像の法的証拠能力と注意点
最近では多くの自動車に取り付けられているドライブレコーダー。万が一の事故の際に、その瞬間を克明に記録してくれる頼もしい存在です。
しかし、多くの人が「ドライブレコーダーがあれば安心」と漠然と考えている一方で、その映像が法的な意味で、どのような効力を持つのか、また、利用する上でどのような注意点があるのかを正確に理解している人は少ないかもしれません。
このコラムでは、ドライブレコーダー映像の法的な重要性について解説し、いざという時にその真価を発揮させるための注意点について掘り下げていきます。
ドライブレコーダー映像の証拠としての信用性
まず結論から言うと、ドライブレコーダーの映像は高い信用性があり、証拠としての価値が非情に高いものです。
裁判や示談交渉の場において、証拠は「事実を証明するもの」として扱われます。これまでの交通事故では、当事者の証言や警察の現場検証(実況見分)などが主な証拠とされてきました。しかし、これらの証拠には、以下のような問題点がありました。
- 証言の曖昧さ、記憶違い:事故の当事者は、衝撃や混乱で正確な状況を覚えていないことがあります。また、自分に有利なように証言を歪めてしまうことも少なくありません。
- 客観性の欠如:警察の実況見分は、事故後の状況を基に行われるため、事故直前の状況や原因を完全に把握することは困難です。
これに対して、ドライブレコーダーの映像は、事故の瞬間を客観的かつ正確に記録しているため、当事者の主観的な証言や曖昧な記憶を補完し、時には覆すほどの力を持っています。
具体的に証明できること
ドライブレコーダー映像は、以下のような事実を証明する上で非常に有効です。
- 事故発生時の状況:録画された映像から、例えば、相手が信号無視をした、一時停止を怠った、車線変更で無理な割り込みをした、などの事実を明確に証明でき、過失割合などの証明にとって非常に有用です。
- 当て逃げ・ひき逃げ事件の捜査:逃走車両の車種やナンバープレートを記録していれば、犯人特定の大きな手がかりとなります。
ドライブレコーダー映像を有効活用するための注意点
ドライブレコーダーの映像は強力な証拠となり得ますが、ただ撮影しているだけでは、その力を最大限に発揮できない場合があります。以下の注意点を押さえておきましょう。
1. 事故発生時の対応
事故が発生したら、まずは落ち着いて警察に通報し、救護活動を行うことが最優先です。その後、ドライブレコーダーの映像を保全しましょう。
- 映像データの保護:多くのドライブレコーダーは、新しい映像が古い映像に上書きされていくループ録画方式です。事故の衝撃で自動的に保護される機種もありますが、確実にデータを保護するために、SDカードを取り出す、もしくは手動で保護ボタンを押すなどの対応をしましょう。
- 相手方への提供は避ける:事故現場で、相手方から「映像を見せてほしい」と言われることがあります。しかし、その場で安易に映像を見せたり、データを渡したりすることは避けましょう。トラブルになる可能性があります。映像は警察や保険会社などの関係機関に提出するのが原則です。
2. 映像の信頼性を高める工夫
映像の証拠能力をさらに高めるためには、以下の点にも注意しましょう。
- 正しい日時設定:ドライブレコーダーの日時設定が間違っていると、映像の信憑性が疑われる可能性があります。定期的に日時が正確か確認しましょう。機種によっては、自動で日時が補正されるため安心です。
- 画質の確認:鮮明な画質であるほど、ナンバープレートや信号の色など、重要な情報が正確に記録されます。購入時には、十分な画素数を持つ機種を選び、定期的にレンズの汚れを拭くなど、メンテナンスを怠らないようにしましょう。
- 編集を行わない:事故の前後だけ切り取る、音声を消去するなどの加工や編集は行わないようにしましょう。
3. 2カメラ・360度カメラの活用
車両前方のみを撮影するタイプが一般的ですが、後方や車内も撮影できる機種も増えています。
- 後方カメラ:追突事故やあおり運転の際に、非常に有効な証拠となります。特に、あおり運転は「煽られている」という主観的な感覚だけでは立件が難しい場合がありますが、後方カメラで相手の危険な運転状況を記録することで、より強い証拠となります。
- 360度カメラ:側面からの衝突や、駐車場での当て逃げなど、さまざまな角度からの衝撃を記録できます。
4. プライバシーへの配慮
ドライブレコーダーは、自分以外の車両や歩行者も記録します。録画した映像をSNSなどに安易に公開することは、プライバシー侵害にあたる可能性があります。
まとめ:ドラレコは「守る盾」である
ドライブレコーダーは、あなたを不当な主張から守る「盾」となります。事故は、いくら自分が注意していても、いつ巻き込まれるかわからないものです。
ドライブレコーダーの映像を有効な法的証拠として機能させるためには、単に設置するだけでなく、その取り扱い方や注意点を理解しておくことが不可欠です。
今一度、ご自身のドライブレコーダーの設定や使い方を見直してみてください。それが、いざという時にあなた自身と大切な人を守ることにつながります。