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脳脊髄液漏出症


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1 はじめに

  「脳脊髄液漏出症」という病気をご存知でしょうか。一般的にはあまり聞きなじみのない病気かもしれません。一方で、むち打ちは一般的にも知られていると思われます。

  むち打ちと脳脊髄液漏出症は、同じものというわけではありません。しかし、なかなか治らないむち打ちの中には、脳脊髄液漏出症を発症しているケースがあります(むち打ち症の概要については、https://kawanishiikeda-law-jiko.com/whiplash/ をご覧ください。)。

今回は、脳脊髄液漏出症とこれに関する損害賠償実務の傾向について解説します。

 なお、脳脊髄液漏出症に関係するものとして、「低髄液圧症候群」又は「脳脊髄液減少症」等も存在します。医学的に厳密にいえばこれらは異なるもののようですが、本記事では、いずれも脳脊髄液が漏れている点を問題にしているという意味で、「脳脊髄液漏出症」として解説します。

 これらの症状については、国も取り組みを開始しており、国土交通省のHPによれば、平成23年の「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」の公表、平成28年の「脳脊髄液漏出症」に対するブラッドパッチ療法の社会保険適用、令和元年12月の「脳脊髄液漏出症診断指針」の発行を受けて、この診療指針等を有効に活用し、適正な保険金の支払いを通じて被害者保護の一層の充実につとめるよう、保険会社等へ通知を行っているということです。画像は、かかる国土交通省のHPから引用したものです。

2 脳脊髄液漏出症とは?

(1)概要

  脳脊髄液漏出症とは、脳や脊髄を満たしている脳脊髄液が、事故等の何らかの原因で漏れ出し、頭痛、めまい、倦怠感など様々な症状を呈する疾患のことをいいます。

  脳脊髄液の漏出が問題となる疾患ですので、立っている状態で上記のようや頭痛等の症状が強く現れ、横になると回復することが多いという特徴があるとされています。このような頭痛のことを「起立性頭痛」といいます。

(2)診断基準等

  脳脊髄液漏出症の診断基準としては、厚労省研究班の研究による「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」が公表されています。また、この他にも、国際頭痛分類(ICHD-3β)などの診断基準等が存在しています。

  裁判所もこれらの基準等を参考にして、脳脊髄液漏出症が発症しているかどうかを判断しています。具体的な判断においては、①画像所見、②起立性頭痛の有無及び③ブラッドパッチテストの効果(ブラッドパッチテストについては後述)の有無等が考慮されているところです。

(3)治療

  脳脊髄液漏出症の治療としては、ブラッドパッチテストがあります。その内容は、漏出が疑われている箇所に自家血を注入し、脳脊髄液の漏出止めようとするものです。

  ブラッドパッチテストは、長らく自費診療でしたが、平成28年4月から保険適用も認められるようになった治療法です。

3 裁判での実情

  脳脊髄液漏出症の概要等は、以上のようなものです。裁判で脳脊髄液漏出症と認定されると、むち打ちのみの場合と比べて、後遺障害等級の認定が被害者の方にとって有利なものとなります。

  しかし、実際のところ、裁判で脳脊髄液漏出症の発症が争われた事例をみると、裁判所は、なかなか脳脊髄液漏出症の発症を認めない傾向にあります。

最近の裁判例の一部をご紹介します。
 例えば、令和2年2月28日の神戸地裁の判決では、医師の診断書があっても、脳脊髄液漏出症の発症を認められないとの判断がされています。その他にも、医師により脳脊髄液漏出症と診断されていたり、その旨の医師の意見書が存在する事案であっても、裁判所の判断では発症を認めないとした裁判例が多数存在するところです。

  地方裁判所で脳脊髄液漏出症の発症が認められた事例もありますが(広島地方裁判所福山支部平成30年6月21日判決)、この裁判では控訴され、高等裁判所で地方裁判所の認定を覆す判断がされています(広島高判令和元年12月5日)。

4 まとめ

  以上のように、裁判で脳脊髄液漏出症の主張をしても、なかなか裁判所には、認めてもらえないのが現状です。
 しかし、裁判所としても、この病気の存在自体を否定しているわけではありません。
 結論としては否定されることが多いですが、裁判所で脳脊髄液漏出症と認められるかどうかは、具体的な状況を踏まえて判断されています。そのため、被害者の方が置かれている具体的な状況を丁寧に把握し、裁判例の動向も踏まえて検討することが必要となります。

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