交通事故解決 川西の弁護士法人 村上・新村法律事務所

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定期金賠償について

第1 はじめに

   交通事故による被害者の将来の介護費用や逸失利益について一時金による賠償を命ずる場合、その算定は賠償額を定める時点における蓋然性に基づく予測の下に行わざるを得ません。そこで、将来の損害については、定期金賠償の方式を採用することにより、現実化した損害に応じて、実際の損害額により近い損害賠償の支払いを認めることができます。

そこで、本稿では「定期金賠償」に関する基本的な事項を説明した上で、定期金賠償に関する近時の重要な判例(最高裁判所第一法廷令和2年7月9日判決)を紹介します。

第2 定期金賠償と一時金賠償について

 1 定期金賠償及び一時金賠償の定義

   定期金賠償とは、将来具体化する損害(典型例として、後遺障害逸失利益や将来介護費)については、将来の時点において損害が具体化するたびに定期的に賠償金を支払う方式のことをいいます。

   他方で、一時金賠償とは、口頭弁論終結時を判断基準時として、損害額の全額を一括して支払う方式です。

 2 定期金賠償と一時金賠償の長所・短所

 長所短所
定期金賠償①将来介護費用であれば「生存期間」、後遺障害逸失利益であれば「後遺障害の程度の変化」といった不確定要素に対応した賠償が可能である。①将来における加害者の資力悪化のリスクが生じる。
一時金賠償①紛争を一回的に解決することができる。①将来の全損害を予測するので損害額が適切でなくなる可能性がある。 ②中間利息が控除される。(民法417条の2参照)

 3 後遺障害による逸失利益と定期金賠償の関係

   そもそも、定期金賠償という方式は民法の条文で定められている訳ではなく、むしろ裁判実務の中で発展してきました(ただし、現在の民事訴訟法117条は、定期金賠償判決が可能であることを前提とした条文になっています。)。それゆえ、後遺障害による逸失利益を定期金賠償の対象とすることができるかどうかについても、従来から見解が分かれておりました。

そんななか、後遺障害による逸失利益が定期金賠償の対象とすることができると判断した最高裁判例(最高裁判所第一法廷令和2年7月9日判決)が現れました。当該裁判例は、後遺障害による逸失利益が定期金賠償の対象となるかどうか理解するうえで重要な意義を有しているので、以下で紹介します。

第3 最高裁判所第一法廷令和2年7月9日判決・判例タイムズ1480号138頁

 1 事案の概要と争点

   原告(事故当時4歳)は、交通事故により脳挫傷・びまん性軸索損傷等の傷害を負い、その後、高次脳機能障害(詳しく知りたい方はこちら   https://kawanishiikeda-law-jiko.com/3452-2/ https://kawanishiikeda-law-jiko.com/3456-3/)の後遺障害(後遺障害等級3級3号に該当する後遺障害)が残りました。そこで原告は、後遺障害による逸失利益として就労可能時期である18歳からその終期である67歳までの間に取得すべき収入額を、その間の各月に定期金により支払う(この部分がいわゆる定期金賠償)ことを求めました。

本件では、後遺障害による逸失利益が定期金による賠償の対象となるかどうかが問題となりました。

 2 判示事項

  ⑴ 後遺障害による逸失利益の賠償につき、定期金賠償を採用することの可否

「被害者が事故によって身体傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合において、労働能力の全部又は一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失したという損害…は、不法行為の時から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質のものであり、その額の算定は、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ない。」

「不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とする」から「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。

  ⑵ 就労可能期間の終期より前に被害者が死亡した場合に、死亡の時点を終期とすることの要否

    上記逸失利益について一時金賠償を求める場合には、「その後に被害者が死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、同死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではない(最高裁平成8年5月31日第二小法廷判決・民集50巻6号1323頁参照)」。定期金賠償による場合も同様に解すべきである。なぜならば、定期金賠償も「交通事故の時点で発生した1個の損害賠償請求権に基づき、一時金による賠償と同一の損害を対象とする」し、「上記特段の事情がないのに、交通事故の被害者が事故後に死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の填補を受けることができなくなることは、…衡平の理念に反する」からである。「そうすると、上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である。

  ⑶ 本件事案における具体的検討

    「以上を本件についてみると、被上告人は本件後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めているところ、被上告人は、本件事故当時4歳の幼児で、高次脳機能障害という本件後遺障害のため労働能力を全部喪失したというのであり、同逸失利益は将来の長期間にわたり逐次現実化するものであるといえる。これらの事情等を総合考慮すると、本件後遺障害による逸失利益を定期金による賠償の対象とすることは、上記損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるというべきである。」

「また、本件後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たり、被上告人について、上記特段の事情はうかがわれない。」

 3 考察

  ⑴ 後遺障害による逸失利益の賠償につき、定期金賠償を採用することの可否に関する判示事項についての考察

    後遺障害による逸失利益が不法行為の時以後に逐次現実化する性質のものであり、その額を賠償請求時に算定することが困難であることを理由として、後遺障害による逸失利益の賠償につき、定期金賠償を採用することを認めました。その意味で、当該判示部分は非常に重要な意義を有しています。

  ⑵ 就労可能期間の終期より前に被害者が死亡した場合に、死亡の時点を終期とすることの要否に関する判示事項についての考察

    後遺障害による逸失利益につき定期金賠償を命ずるにあたっては、交通事故の時点で被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期としないとしました。[1]つまり、本判決は、被害者が判決時の予想に反して思いがけず早期に死亡したとしても、その事実によって損害賠償義務の内容は変動しないという考え方を前提にしているものと思われます。[2]

第4 終わりに

   交通事故の損害賠償においては、一時金賠償と定期金賠償のいずれを選択するかによって、支払われる賠償額も変わってきます。特に、高次脳機能障害による後遺症が残存した場合には、時間の経過とともに症状が悪化することもあるので、定期金賠償を選択するべき場合が多いように思われます。

また、定期金賠償は、将来にわたり逐次現実化する損害に柔軟に対応できるという利点がありますが、原告側から定期金賠償を求める旨の申立てがなければ認められません。[3]そのため、定期金賠償を希望する場合には、必ず訴訟の中でその旨を明確に主張する必要があることを意識していただきたいと思います。

                                         以上


[1] 「交通事故損害賠償法(第3版)」 北河隆之 P.232参照

[2] 法学教室(Nov.2020 No.482)P.140

[3] 「交通事故損害賠償法(第3版)」 北河隆之 P.229参照

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