交通事故解決 川西の弁護士法人 村上・新村法律事務所

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会社役員の休業損害

第1 会社役員の休業損害について

 1 休業損害とは

休業損害とは、交通事故による負傷の治療で、作業又は不十分な就労しかできなくなった場合、治療期間中に得たはずの収入を失ったことによる損害です。

2 会社役員の休業損害が認められるか

⑴ 原則

会社役員の休業損害の発生は認められていません。なぜならば、会社役員は違法な行為や不正な行為をしない限り、会社に対し株主総会等によって認められた報酬を請求することができる(役員の地位にある限り支給される)[1]ため、休業したことを理由に役員報酬が減額されることは基本的にないからです(特に、会社役員が支配株主であれば、それは実質的には利益配当であって、労働の対価とは言い難い面もあります。)。

  ⑵ 例外

    もっとも、休業したことを理由に役員報酬が減額される場合もあります。例えば、小規模な法人では現場で労働することを前提に役員報酬を受け取っている会社役員も存在します。これらの者は、休業により労働できなかった分に応じて役員報酬が減額されることがあり、そのような場合には休業損害の発生が認められる可能性があります。

 3 会社役員の休業損害の算定方法

⑴ 休業損害の算定にあたっては、役員報酬を「経営の対価相当額」と「労働の対価相当額」とに区分し、このうち「労働の対価相当額」を休業損害として認定するという考え方を採用しています(東京地判昭和61年5月27日参照)。

⑵ 役員報酬の類型としては、①従業員兼取締役のように「経営の対価相当額」と「労働の対価相当額」の区別が明確である場合、②代表者や専務のように「経営の対価相当額」と「労働の対価相当額」の区別が明確でない場合が考えられます(理屈からいえば、代表権のあるものは従業員とはいえず「労働」を観念し難い。)。

①の場合は、区別が可能であるため、「労働の対価相当額」のみを休業損害として認定すれば問題ありません。他方で、②の場合には「経営の対価相当額」と「労働の対価相当額」が形式的には区別されていないため、どのようにして休業損害額を認定するのかが問題となります。そこで、以下では、②の場合に関する裁判例を紹介します。

第2 裁判例の紹介

 1 「経営の対価相当額」と「労働の対価相当額」の割合を40%:60%と判断した裁判例(大阪地判平成15年4月30日・自保ジャーナル1546号8頁)

 ⑴ 事案の概要

    訴外B社(従業員7・8名のうち5人が親族)の取締役の地位にあった原告は、事故によって頸部捻挫、背部打撲挫傷、右下腿打撲挫創などの傷害を負いました。被告は、原告の役員報酬1200万円のうち、実質的に利益配当に対応する部分があり、原告の基礎収入は年840万円程度であると主張しました。

  ⑵ 判示事項

    裁判所は、①「訴外B社では、設立以来、株主に対する配当はなされていない」こと、②「原告は…出荷・配達のための荷下ろしをするなどの肉体労働に従事していた」こと、③原告の休業期間中に他の役員報酬は増加した(事故の翌年には取締役2名の役員報酬が「360万円⇒900万」に増加し、事故の翌々年には代表取締役の役員報酬が「1200万円⇒1650万円」に増加していました。)こと[2]、④原告が職場に復帰した際の業務は軽作業であったにもかかわらず、役員報酬として月額45万円(事故前は月額100万円)を受け取っていることを指摘した上で、「原告らの役員報酬については、当該役員の労務の提供に対する対価のみならず、実質的な利益配当が相当部分を占めているものと認められ、その利益配当部分は、少なくとも40%に及ぶものと認めるのが相当である」と判断しました。

 2 役員報酬全額が「労働の対価相当額」と判断した裁判例

  ⑴ 東京地判平成11年6月24日・判タ1003号322頁

   〔事案の概要〕

    名目的取締役の地位にあった原告(事故前の年収は806万3000円)は、事故によって胸椎・胸髄損傷による両下肢の完全麻痺、両肺挫傷等の傷害を負いました。被告は、年収のうち月額4万5000円は役員報酬として支給されており、労働の対価ではないから基礎収入に含めるべきではないと主張しました。

   〔判示事項〕*休業損害に関する部分に限ります。

    裁判所は、「原告は…勤務先の訴外株式会社の名目的取締役であったが、従業員として労働に従事していたこと、本件事故後収入の全額が支給されていないことが認められ、役員報酬部分も労働の対価であったものということができる」として、「806万3000円を損害算定の基礎とするのが相当である」としています。そのうえで、原告の休業損害は220万9041円(「基礎年収806万3000円」×「休業日数100日/365日」)としました。

  ⑵ 名古屋地判平成16年4月23日・交民集37巻2号557頁

   〔事案の概要〕

    運送会社(従業員39名の会社)の専務取締役の地位にあった原告は、事故によって右膝前十字靭帯付着部剥離骨折、右膝内側側副靭帯付着部骨折等の傷害を負いました。被告は、原告の休業期間も会社から報酬が全額支給されており、休業損害は発生していないと主張しました。

   〔判示事項〕

    裁判所は、「原告は…平成13年(事故の1年前)には…毎日午前6時30分ごろ出社し、その他の従業員に対し、作業現場に行くための指示を出し、午前8時頃には作業現場に出て、現場監督を行ったり、クレーンの操作等の作業を行い、午後5時頃に作業を終えて訴外会社に戻り、翌日の段取りをして午後8時か9時頃に退社するという勤務を続けていた」という事実を認定しました。

そのうえで、取締役に就任(平成13年7月頃)してからも「原告の勤務内容、勤務時間等に変化はなく、取締役としての報酬額も、従前給与として支給されていた金額と同額とされ、経理上は、給料・賞与として支給され、他の従業員と同様に健康保険料や厚生年金保険料も控除されて」いるとして、「原告は訴外会社の取締役とされ、取締役としての報酬を受けているが、実質は取締役就任以前と同様に訴外会社の従業員として勤務していたと解され、原告に支給されていた報酬は、全て労働の対価であったと解するのが相当である」として、休業期間5か月分に対応する330万円を休業損害として認めました。

                                    以上


[1] 「損害賠償における休業損害と逸失利益算定の手引き(2023年版)」239頁参照

[2] 原告の休業期間中原告の役員報酬(事故前月額100万円)は、事故の翌年には役員報酬が月額75万円に、事故の翌々年には月額26万2500円に減少していました。

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