公務員の交通事故(被害者側)
第1 はじめに
公務員が交通事故の被害に遭った場合、休業損害や逸失利益の算定では、一般の会社員とは異なる問題が生じます。この記事では、まずどのような問題が生じるのかを整理し、そのうえで実務的に注意すべきポイントを解説します。
第2 休業損害に関する問題
1 休業損害について
休業損害とは、交通事故による負傷の治療で、作業又は不十分な就労しかできなくなった場合、治療期間中に得たはずの収入を失ったことによる損害です。休業損害は、「1日当たりの基礎収入額」×「休業日数」で算出されるのが一般的です。
2 公務員の休業損害に関する問題
⑴ 公務員は、事故による傷病で働けなくなった場合でも、「病気休暇」(国家公務員法10条や一般職の職員の勤務時間・休暇等に関する法律18条参照)や「公傷病休暇」を取得することができます。そして、これらの休暇が認められた場合、一定期間は給与が減額されずに支給されます。
⑵ では、病気休暇を取得した期間について休業損害が認められるのでしょうか。この点、病気休暇を取得した期間について休業損害は認められないようにも思われますが、裁判例(神戸地判令和2年2月20日)には病気休暇を取得した期間について休業損害を認めたものがあります。
上記裁判例では、前方の赤信号に従って停止しようと減速した原告(県職員として土木事務所に勤務する公務員)は後続の被告車両に追突され、頸椎捻挫、腰椎捻挫、両眼調節障害、両側感音難聴、めまい症、耳鳴等の傷害を負い、病気休暇を22日、年次有給休暇19日と1時間45分取得しました。裁判所は、休業日数について病気休暇の22日を含めた41日と1時間45分としたうえで、休業損害を57万6542円〔1万3985円(日額)×41日(休業日数)+1804円(時間給)×1.75(休業時間)〕としました。
第3 後遺障害逸失利益に関する問題
1 後遺傷害逸失利益とは
後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって労働能力の一部又は全部を喪失し、それにより見込まれる収入の喪失又は減少を言います。後遺障害逸失利益は、「1年あたりの基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(将来の利息分を差し引くために用いる係数)」によって算出されます。
2 公務員が交通事故の被害者になった場合の問題
⑴ 公務員は会社員と比べて身分保障がしっかりしているため、後遺障害を負ってしまったからといって必ずしも減収されるわけではありません。もっとも、後遺障害による欠勤によって勤務日数の条件を充たすことができず、昇給の機会を失い、定年までの総収入や退職金の金額が減少する可能性があります。つまり、減収がなくても将来の昇進によって得られるはずだった利益を失う可能性があるという点で不利益が生じます。
⑵ では、減収がない場合であっても、後遺障害逸失利益が認められるのでしょうか。この点、後遺障害逸失利益を認めた裁判例があるので紹介します。
〔事案の概要〕
被害者(国税調査官)は、事故によって後遺障害11級に認定されました。後遺障害等級が11級の場合の労働能力喪失率は20%ですが、減収がなかったまため、後遺障害逸失利益が認められるのかが問題となりました。
〔判示事項〕
裁判所は、「原告が、特に昇給が遅れている状況にあると認めるには足りない。したがって、現時点においては、特段本件事故による減収がないだけでなく、昇給において特段の不利益が生じているとも認めることはできない。しかし…原告は、腰痛のために仕事の集中力を欠き、能率が落ち、同僚らと比較してかなり長い時間の残業をして業務をこなしていることが認められる。そうすると、現時点において特段の減収が認められないといっても、それは原告の努力によるところも多いというべきであるし、現時点では減収はなくても、残業によらなければ業務をこなせないことなどが、将来の昇給や昇格に影響が出る可能性は否定できない。そうすると、原告の仕事の能率が落ちる原因が、身体の機能的な障害によるものではなく、腰痛の影響による集中力の低下にとどまることや現時点においては減収が発生していないことを考慮しても、前記の就労可能期間を通じて平均して14%の逸失利益を認めるのが相当である。」と判断しました。
第4 おわりに
公務員が交通事故に遭った場合の休業損害や後遺障害逸失利益の問題は、公務員に対する保障が手厚いがゆえに、一般の会社員とは異なる複雑な判断が求められます。給与が支給され続けるから損害がないと単純に割り切ることはできず、また減収が生じていないからといって将来の昇給や昇格に影響がないとも限りません。
公務員特有の制度や勤務実態を踏まえた損害算定は、専門的な知識と経験が求められる分野です。被害に遭われた公務員の方は早い段階で交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
以上



