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症状固定後の休業損害が認められた事例

第1 はじめに

1 休業損害は、症状固定(治療をしてもその効果が期待できない状態で、かつ、残存する症状が自然的経過によって到達する最終の状態)時までに発生した現実の損害をカバーするものです。他方で、症状固定後の将来に向かって発生する損害については、専ら後遺障害逸失利益(以下、「逸失利益」といいます。)によってカバーされます(下図参照)。

2 それゆえ、症状固定の時期は重要です。保険会社から「そろそろ症状固定しませんか?」と言われ、症状固定をしてしまった場合、その時以降の休業損害は認められないのが原則です(症状固定の適正な時期に関する記事はこちらhttps://kawanishiikeda-law-jiko.com/symptomfixation/)。もっとも、例外的に症状固定後の休業損害が認められるとした裁判例(仙台地判令和元年6月26日・自保ジャーナル2054号123頁)があるので、以下で紹介します。

第2 裁判例(仙台地判令和元年6月26日・自保ジャーナル2054号123頁)の紹介

 1 事案の概要

⑴ 原告は、平成25年10月23日に発生した交通事故により右膝内側半月板損傷・右膝外側側副靭帯損傷(後遺障害等級表12級13号に該当する後遺障害と認定されました。)を負い、A整形外科に下記表の期間通院しました。原告は当初、平成26年10月23日を症状固定日として、平成27年に訴訟を提起しました。

 入通院期間実際の 入通院日数有給取得日数
A整形外科平成25年10月24日 ~平成26年6月2日91日①15日
平成26年10月23日:症状固定
E病院平成28年5月11日 ~平成30年2月15日(症状固定後の期間)通院22日 入院46日②78日(平成28年7月7日~同年10月31日までの間) ③7日(平成30年2月1日~同月25日までの間)

⑵ ところが、症状固定後しばらくしても膝が不安定であり疼痛が残存しているとして、原告は平成28年にE病院を受診し、右膝後十字靭帯断裂・外側側副靭帯断裂の診断を受け、下記表の期間、入通院しました。原告は症状固定日を平成30年10月23日に変更しましたが、その主張を裏付ける証拠がないとして、当初の主張通り、平成26年10月23日が症状固定日と認定されました。

⑶ 以上のような経緯により、原告はA整形外科へ通院するために取得した15日間の有給休暇分(以下、「①A整形外科分」と言います。)に加えて、症状固定後にE病院へ入通院するために取得した78日間の有給休暇分(以下、「②E病院分」と言います。)及び7日間の有給休暇分(以下、「③E病院分」と言います。)を休業損害として請求せざるをえなくなりました。そこで、症状固定後の休業損害が認められるかが争点となりました。

なお、有給休暇を使用した期間について休業損害が発生するのかという点も問題となりましたが、それについては別稿で解説します。

⑷ 損傷や断裂が生じた膝の部位について、以下の図を使って簡単に説明します。右膝内側半月板損傷・右膝外側側副靭帯損傷(1回目の診断)は、下図A・Bに損傷がある状態です。右膝後十字靭帯断裂・外側側副靭帯断裂(2回目の診断)は、下図B・Cが断裂した状態です。

2 裁判所の判断

⑴ ①A整形外科分(症状固定前)について、「平成25年7月から同年9月までの収入は合計107万2873円であり、実労働日数は63日であるから、日額は1万7029円(107万2873円÷63日)となる」としたうえで、25万5435円(1万7029円×15日)を休業損害として認めました。

⑵ ②E病院分(症状固定後)について、「平成28年4月から同年6月までの収入は合計134万319円であり、実労働日数は61日であるから、日額は2万1972円(134万319円÷61日)となる」としたうえで、171万3816円(2万1972円×78日)を休業損害として認めました。また、②E病院分の「休業損害は、症状固定後のものであるが、後遺障害の内容・程度からして、必要性及び相当性を認め、本件事故と相当因果関係のある損害と認める」と判断しています。

⑶ ③E病院分(症状固定後)について、「平成29年11月から平成30年1月までの収入は合計145万6013円であり、実労働日数は64日であるから、日額は2万2750円(145万6013円÷64日≒2万2750円)となる」としたうえで、15万9250円(2万2750円×7日)を休業損害として認めました。また、③E病院分の「休業損害も症状固定後のものではあるが、後遺障害の内容・程度からして、必要性及び相当性を認め、本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。」と判断しました。

⑷ 以上の検討を踏まえて、裁判所は合計で212万8501円を休業損害として認めました。

 3 若干の考察

⑴ ②E病院分・③E病院分に関する判断において、いずれも「後遺障害の内容・程度からして、必要性及び相当性を認め、本件事故と相当因果関係のある損害と認める」と述べています。そこで、この判示部分について掘り下げて検討してみます。

⑵ この判示部分は、事故による後遺障害(後遺障害等級の認定がされたことを意味するわけではないと思われます。以下「傷害」といいます。)の内容・程度に照らして、治療のための入通院が合理的な場合(判旨では「必要性及び相当性」という言葉で表現しています。)に損害と事故の間の相当因果関係を認める趣旨だと思われます。本件裁判例は、「後遺障害の内容・程度からして、必要性及び相当性を認め」るとしか述べていませんが、認定事実等を踏まえて、裁判所が何を根拠に必要性・相当性を認めたのか以下で検討します。

⑶ まず、E病院の診断で、原告は右膝後十字靭帯断裂・外側側副靭帯断裂と診断されました。原告の傷害が重大な傷害であったことに鑑みると、手術及び手術に伴う入通院は必要であったと考えられます。

  次に、E病院のF医師は、外傷の程度が大きく、軟骨・関節包など他の組織の損傷があり、関節のゆるみも幾分残存しており、膝内の滑膜炎が続いており、二次的な軟骨損傷、半月板損傷、変形性膝関節症などにより手術が必要となる可能性があると判断しました(認定事実の「医師の回答書」参照)。この事実認定を踏まえると、膝の手術をすることはA整形外科の診断(右膝内側半月板損傷・右膝外側側副靭帯損傷)から予測可能な範囲にあったといえ、手術をすること及び手術に伴う入通院を行うことは相当であったと考えられます。

  以上のような考えに基づいて、裁判所は必要性・相当性を肯定したのかもしれません。なお、過去には、今回の判断と似たような考え方で症状固定後の休業損害を肯定した裁判例(札幌地判平成13年6月18日・自保ジャーナル1409号5頁、症状固定後に症状が悪化したときには人工関節置換手術を行う必要があり、かつ、将来的に手術を受けることになる蓋然性があることを理由に休業損害として55万4861円を認定しました。)があります。

                                            以上

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