実況見分調書
交通事故の民事事件における実況見分調書の重要性と立ち会う際の法的ポイント
人身事故が発生した場合、警察により実況見分が行われ、実況見分調書を作成する場合が多くあります。
この実況見分で作成される実況見分調書は、警察が事故状況を記録した公的な証拠として、その後の示談交渉や裁判において信用性の高い証拠として評価される場合が多くあります。
しかし、多くの人がその重要性を十分に理解しないまま、実況見分に立ち会っているのが現状です。
このコラムでは、実況見分調書が持つ法的意味と、立ち会う際に知っておくべき法的ポイントについて詳しく解説します。
なお、物損事故の場合には、物件事故報告書という書面が警察により作成される場合がありますが、この報告書は非常に簡易なもので実況見分調書とは異なりますので、注意してください。
実況見分調書とは何か
実況見分調書とは、法規に基づき刑事事件捜査のために警察官が事故現場で双方又は一方の当事者の立ち会いのもと、事故の状況を確認し、記録した書面です。
この調書には、一般的に以下の情報が記載されることが多いです。
なお、事故後にしばらく経ってから行われる場合もあり、一通の書類であるとは限りません。
- 事故現場の図面:道路の幅、交差点の形状、信号機や横断歩道の位置、停止線からの距離などが正確に描かれます。
- 当事者の指示説明の内容:事故発生時の状況や、車両の走行経路、衝突場所、停止位置など、当事者が指示説明した内容が記載されます。
- 写真:事故車両の損傷箇所や、現場の状況を撮影した写真が添付されます。
実況見分調書に記録される道路幅や距離、ブレーキ痕、飛散物の場所、損傷状況など客観的な状況の記載は非常に高い信用性があります。他方で、当事者の指示説明の内容はあくまでも供述内容と事故現場の状況が整合するかが問題とされるので、その指示説明の内容が事実であるとは限りません。
例えば、事故が起きた場合にその原因が運転者がカーナビを操作していたのか居眠りだったのかは、客観的な状況と矛盾の無い場合には運転者の指示説明が記載される場合が多いと思われます。
実況見分調書の法的意味:なぜ重要なのか
1. 過失割合の判断材料となる
過失割合が100:0ではない交通事故において、実況見分調書は過失割合の判断に大きく影響します。過失割合は、事故の責任が当事者間でどのように分担されるかを数値化したもので、示談金の額を大きく左右します。
示談交渉や民事訴訟の場合、過失割合は判例タイムズ社が出版している「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」により判断することが法律実務です。
この「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」は、様々な事故態様を類型化されており、その類型の事故に複数の要素を考慮して過失割合を判断します。
実況見分調書は、事故現場の状況を記録しているため、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」を基に過失割合を判断する上で非常に重要な根拠となります(例えば、赤信号無視による交通事故の過失割合は、こちら、https://kawanishiikeda-law-jiko.com/321-2/)。
2. 裁判において信用性の高い証拠として評価される
もし示談交渉がまとまらず、裁判にまで発展した場合、実況見分調書は強力な証拠として扱われます。
民事事件では、損害賠償請求訴訟において、事故の状況を証明する基礎資料となります。多くの場合、裁判官はこの調書をもとに事故の事実認定を行うため、その内容は非常に重い意味を持ちます。
実況見分に立ち会う際の法的ポイント
先ほど説明したように実況見分調書は、警察官が法規に基づき刑事事件の捜査のために作成する書面であり、刑事事件手続上の証拠として検察官の行う処分や判決の内容に関わるものです。
民事事件としての交通事故ではその作成された実況見分調書を副次的に使用しているに過ぎません。ですので、メインは警察による捜査のための手続ということをよく理解して立会いし説明を行うようにしてください。その結果が、民事事件でも重要な証拠になります。
1. 供述は「正確に」「具体的に」
実況見分では、警察官から「どういう状況で事故が起こったか」を尋ねられます。このとき、曖昧な表現や憶測ではなく、覚えている範囲で正確かつ具体的に説明することが重要です。
- 「〜だったと思います」ではなく、「〜でした」と断言できることのみを話す。
- 衝突位置や停止位置を、現場の目印(電柱、マンホールなど)を使って正確に伝える。
- 速度や距離も、可能な限り具体的に伝える。(例:「時速30kmくらいで、交差点から10mくらいのところで衝突しました」)
あなたが加害者側である場合には、刑事手続上さらに慎重に対応しなければなりません。実況見分調書の指示説明は供述証拠として扱われます。後の検察官による起訴・不起訴、裁判所による判決の材料となります。不用意な供述は、自身の不利益に働く可能性があります。もし、指示説明を行うのであれば覚えている範囲で正確かつ具体的に説明することが重要だということを、再度お伝えしておきます。
2. 疑問点はその場で確認する
実況見分調書は、後から内容を訂正することが非常に困難です。そのため、警察官の説明や記録内容に疑問点や間違いがある場合は、その場で指摘し、訂正してもらうことが重要です。
- 「私が説明した停止位置は、もう少し前方です」
- 「相手の車線は、そちらではなく、こちらです」
など、具体的に間違いを伝えましょう。このとき、感情的にならず、冷静に事実を伝えることが大切です。
3. 現場写真の撮影
警察官が撮影する写真とは別に、ご自身でもスマートフォンなどで現場の写真を多角的に撮影しておくことをおすすめします。
- 車両の損傷箇所
- ブレーキ痕や散乱物
- 周囲の道路状況(信号機、標識、一時停止線など)
これらの写真は、万が一、実況見分調書の内容に不備があった場合や、裁判で新たな証拠を提出する際に役立つことがあります。
4. 救急搬送された場合等
これまで説明した実況見分調書ですが、交通事故被害に遭われ、救急搬送された場合などには、被害者の方の立会いなく実況見分が実施されることが多くあります。そのような場合には被害者の方立ち合いの実況見分が実施されない場合もあります。
被害者として、実況見分の実施を警察に求めることになりますが捜査の必要性によって判断されるため、警察からすれば被害者の方は供述調書で説明してもらえば足りるとして、実況見分は実施されない場合もあります。
そのような場合、被害者としては、民事事件の交通事故相手方の指示説明により作成された実況見分調書を基にしながらも、客観的な記録部分をもとに事故状況を丁寧に主張し、他の証拠とあわせて立証していくことになります。
まとめ:実況見分は未来を守る重要な手続き、だけど・・
交通事故直後は、精神的なショックで冷静な判断が難しい状況かもしれません。しかし、実況見分は、その後の示談交渉や法的手続きにおいて、あなたの正当な権利を守るための最初の重要な手続きです。
実況見分調書の重要性を理解し、立ち会う際には、正確な供述と内容の確認を怠らないようにしましょう。それが、不当な過失割合を避け、適正な補償を得るための第一歩となります。
ですが、ケガなどのために実況見分に立ち会うことができなかったからといって何も諦める必要はありません。
実況見分調書の客観的な記録とあなたの記憶やその他の証拠を基に適切な過失割を認めさせ、適正な補償を得ることも十分に可能です。