公務員の交通事故(加害者側)・交通違反

第1 はじめに
公務員が交通事故の加害者になった場合、そもそも、①公務員個人は損害賠償責任を負うのでしょうか。また、その交通事故・交通違反は、②公務員としての身分にどのような影響を与えるのでしょうか(「懲戒処分の対象となるか」、「どのような内容の処分がされるか」など)。そこで、本稿では、上記①・②の問題について、具体例を挙げながら説明します。
第2 交通事故の加害者である公務員の賠償責任
1 交通事故が、公務員の「職務を行うについて」のものである場合、被害者は国家賠償法(以下「国賠法」と言います。)1条1項に基づき、国又は公共団体に対して損害賠償請求をすることになります。国賠法1条1項は、「国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずる」と規定しており、判例においても、「国又は公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない」(最判昭和30年4月19日)としているので、公務員個人に対して提起された訴えは不適法と解されています(但し、公務員に故意・重過失がある場合には議論があり、公務員個人の責任を認めた裁判例もあります。)。
2 もっとも、国賠法1条2項は「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体はその公務員に対して求償権を有する」と規定しています。ここでいう「重大な過失」とは、著しく注意を欠いた場合[1]を指します。したがって、加害者である公務員に故意又は重大な過失が認められた場合には、当該公務員は国又は公共団体から求償される可能性があります。
第3 公務員が交通事故(加害者)・交通違反をした場合のその地位
交通事故の加害者となった公務員としては、どのような懲戒処分がされるのかが最も気になるところではないでしょうか。そこで、以下では、懲戒処分について簡単に説明した上で、懲戒処分の具体例について紹介します。
1 懲戒処分について
懲戒処分とは、公務員の服務上の義務違反に対して、公務員関係における秩序を維持する目的をもって、任命権者が公務員に科する行政上の処分です。
例えば、地方公務員の場合、任命権者たる懲戒権者は、地方公務員法29条1項各号のいずれかに該当する事由(以下「懲戒事由」と言います。)があった場合に、免職、停職、減給又は戒告(各処分の意味については、以下の表1を参照ください。)のいずれか一つの処分をすることができるとされています。[2]懲戒処分については、人事院が一定の指針(標準例一覧)を示しており[3]、地方公務員の場合もこれらを参考に独自の指針を示しています。ただ、これらはあくまで例示に過ぎず、例示されていないからといって処分の対象にならないわけではありません(例えば、事故発生時の報告義務が明記されていなかったとしても、報告しなかったことが地方公務員法33条の信用失墜行為に該当するとして懲戒処分の対象となる可能性があります。この点については、後述します。)。
【表1】
| 処分の種類 | 処分の効果 |
| 免職 | 公務員関係から排除するもので、懲戒処分の中で最も重い処分です。 |
| 停職 | この期間は条例の定めにより、給与を受けられません。 |
| 減給 | 条例の定めにより、俸給の月額の5分の1又は10分の1以下を給与から減ずるものです。 |
| 戒告 | その責任を確認し、将来を戒めるものです。 |
【表2】
| 免職 | 停職 | 減給 | 戒告 | ||||
| 飲酒運転※1 | 酒酔い | 人身事故なし | ○ | ○ | |||
| 人身事故あり | ○ | ||||||
| 酒気帯び | 人身事故なし | ○ | ○ | ○ | |||
| 人身事故あり | 措置義務違反なし | ○ | ○ | ||||
| 措置義務違反あり | ○ | ||||||
| 飲酒運転者への車両提供、飲酒運転車両への同上行為等 | 飲酒運転をした職員の処分量定、飲酒運転への関与の程度等を考慮し決定 | ||||||
| 飲酒運転以外での人身事故※2 | 死亡又は重篤な傷害 | 措置義務違反なし | ○ | ○ | ○ | ||
| 措置義務違反あり | ○ | ○ | |||||
| 傷害 | 措置義務違反なし | ○ | ○ | ||||
| 措置義務違反あり | ○ | ○ | |||||
| 飲酒運転以外の交通法規違反※3 | 著しい速度超過等悪質な交通法規違反 | 措置義務違反なし | ○ | ○ | ○ | ||
| 措置義務違反あり | ○ | ○ | |||||
※1 飲酒運転についてはこちら https://kawanishiikeda-law.jp/blog/1055
➡ 飲酒運転の結果、人身事故になると危険運転とされる場合があります(https://kawanishiikeda-law-jiko.com/3-1/)。
※2 人身事故(過失運転致死傷)についてはこちら https://kawanishiikeda-law-jiko.com/6547-2/
※3 なお「この場合において物の損壊に係る交通事故を起こして措置違反をした職員は、抵触又は減給とする。」とされています。いわゆる当て逃げの場合の規定と思われます。
➡ スピード違反の結果、人身事故になると危険運転とされる場合があります(https://kawanishiikeda-law-jiko.com/428-2/)。
2 実際の懲戒処分例
⑴ 交通事故を起こした場合
〔事案の概要〕[4]
本事件は、当該職員が、令和4年9月3日(土曜日)午後7時16分頃、公務外で普通乗用自動車を運転し、さいたま市北区内の五叉路交差点を直進するに当たり、信号機が赤色の灯火信号を表示していることを見過ごし、時速約35~40kmで同交差点内に進入した過失により、右方道路から信号に従い進行してきた普通乗用自動車に気付かず、同車左前部に自車右側面部を衝突させ、相手方に全治約10日間を要する頸椎捻挫等の傷害を、相手方運転車両同乗者に全治約10日間を要する腰椎捻挫等の傷害をそれぞれ負わせたものです。これにより、当該職員に対して、過失運転致傷による略式命令で罰金40万円の刑事処分及び運転免許停止30日の行政処分が科されています。
〔処分内容とその理由〕
被処分者(水道局で主査の地位にある)は、地方公務員法に規定する以下の懲戒処分理由(「法令違反」、「全体の奉仕者としてふさわしくない非行」)に該当するため、1か月間、100分の1の減給処分を受けました。「飲酒運転以外の人身事故」傷害と評価されたものと思われます。
⑵ 交通規制に違反してキップを切られた場合
キップの種類には、赤キップと青キップがあります。赤キップは重大な交通違反とされる酒気帯び運転や無免許運転等の場合に交付され、刑事手続きに進みます。他方で、青キップは一時停止違反や駐車禁止違反等の比較的軽い違反の場合に交付され、反則金を納付すれば刑事手続きには進みません(スピード違反は、当該道路における超過速度に対応し、一般道であれば30キロ以上・高速道であれば40キロ以上が赤キップになり、それ以下の場合は青キップです。)。
〔事案の概要〕[5]
本事件は、当該職員が、令和4年12月18日(日曜日) 午前10時37分頃、公務外で杉戸町内の道路において、自家用普通乗用自動車で、制限速度時速40kmを時速30km超過した時速70kmで走行し、指定速度違反により検挙されたものです。この交通違反により、当該職員に対して、略式命令で罰金6万円の刑事処分及び運転免許停止30日間の行政処分が科されています。
〔処分内容とその理由〕
被処分者(環境局で業務主事の地位にある)は、地方公務員法に規定する以下の懲戒処分理由(「法令違反」、「全体の奉仕者としてふさわしくない非行」)に該当するとして、戒告処分を受けました。赤キップ相当事案のスピード違反であり「著しい速度超過」と評価されたのだと思います。
3 公務員がプライベートで交通事故を起こした場合や交通違反をした場合に職場への報告は必要なのでしょうか。
この点は、各公務員についての独自のルールが定められていることが多くそれらに従うことになりますが、そこに明示されていなかったとしても、公務員の場合、信用失墜行為が禁止(地方公務員法33条・国家公務員法99条)されていることから、間接的に報告義務が認められる場合があると解されています。つまり、例えば、地方公務員の場合、プライベートの交通事故や交通違反であり、独自のルールにも定められていなかったからといったとしても、報告しなかったことをもって地方公務員法33条に違反したとして懲戒処分に付される可能性もあります。
具体的にどのような場合に懲戒処分に付されるのかは難しい問題です。飲酒運転は、交通事故・交通違反に関する標準例においても、特別の取扱いとされていますし、昨今の風潮に照らしても、報告義務があると考えられます。無免許運転については、標準例に例示されておらず、背景事情(うっかり失効等)もあるかもしれませんが、赤キップ相当事案であることからすれば、報告義務はあると解する見解が多いようです。その他、相手を負傷させたものの軽度で示談も成立し、いわゆる「人身事故として届けられなかった」場合をどう考えるか、スピード違反であるからといって青キップに過ぎなかった場合をどのように考えるか等、悩ましい問題は幾つも考えられます。
[1] 最判昭和32年7月9日・民集11巻7号1203頁は、「重大な過失とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これをみすごすような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す」としています。
[2] 「こんなときどうする?地方公務員のコンプライアンス」135頁参照



