- 保険会社からの提示が適正かのご相談に来られて提示額の270%を獲得したケース
- 頸椎捻挫(損害賠償総額320万円・360万円)
- 高次脳機能障害で7級4号が認められた事例(逸失利益4326万円・後遺障害慰謝料1000万円)
- 醜状痕(損害賠償総額1830万円)
- 子供の事故(損害賠償総額600万円・治療費除く)
- 症状固定後の休業損害が認められた事例
- 眼・後遺症(損害賠償総額1500万円)
- 子供の自転車事故と保護者の民事責任(3500万円余りの親の責任が認められた、神戸地判H25・7・4を参考に)
- 死亡交通事故・逸失利益6921万円(広地H10.1.23)
- むち打ち症で12級が認められた事例(逸失利益/事例①1970万円・事例②752万円)
事故当時50歳の公務員(小学校教員)の死亡逸失利益について6577万円の損害を認めた裁判例
はじめに
交通事故でご家族を亡くされたとき、賠償額の中で最も大きな割合を占めることが多いのが「死亡逸失利益(しぼういっしつりえき)」です。
この記事では、50歳の小学校教諭の方が亡くなった実際の裁判例(東京地裁平成26年11月26日判決)をもとに、死亡逸失利益がどのように計算され、どこで争いになるのかを、できるだけ専門用語を使わずに解説します。
どんな事故だったのか
平成22年8月、千葉県内の道路で、路側帯の内側を歩いていた50歳の女性(小学校教諭)が、後ろから来た乗用車にはねられ、4日後に亡くなりました。
運転者は長距離運転で眠気を感じながら休憩を取らず、制限速度40km/hの道路を約60km/hで走行中に居眠り状態に陥りました。さらにブレーキではなくアクセルを踏んでしまい、被害者を5メートル先まで跳ね飛ばしています。
被害者に落ち度はなく、運転者の一方的な過失による事故でした。そのため裁判では「誰が悪いか」ではなく、「損害がいくらか」が争点になりました。
- 請求したのは:夫、子ども2人、同居の両親、妹
- 裁判所が認めた被害者本人の損害:約9303万円
- そのうち死亡逸失利益:6577万4000円(全体の約7割)
そもそも「死亡逸失利益」とは
死亡逸失利益とは、事故がなければ故人が将来得られたはずの収入のことです。給与や事業収入だけでなく、一定の年金も対象になります。
この権利は故人のものとして発生し、相続人(本件では夫と子ども2人)が法定相続分に応じて引き継ぎます。両親や妹は相続人ではないため、逸失利益は受け取らず、自分自身の慰謝料(近親者固有の慰謝料)のみを請求しています。
計算式は「4つの部品」でできている
死亡逸失利益は、次の式で計算するのが一般的です。
基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
| 部品 | 意味 | ここが争いになりやすい |
| 基礎収入 | 計算の土台になる年収。原則として事故前の実際の収入 | 定年後も同じ収入が続くと言えるか |
| 生活費控除率 | 亡くなった方は生活費がかからなくなるため、その分を差し引く割合 | 家計を支える立場だったか(30%〜50%の幅) |
| 就労可能年数 | 何歳まで働けたか。実務では原則「67歳まで」 | 定年を前提に短くするか |
| ライプニッツ係数 | 将来の収入を今一括で受け取る分の「利息」を差し引くための数字 | 法定利率(事故時期で決まる) |
ライプニッツ係数は少し分かりにくいのですが、「20年分の給料を今まとめて受け取ると、運用益の分だけ得をするので、その分を割り引く」という考え方です。本件は平成22年の事故なので、当時の法定利率5%を前提に計算されています(現在の扱いは後述)。
この裁判で裁判所はどう判断したか
裁判所は、逸失利益を6577万4000円と認めました。ご遺族側の主張(約6835万円)に近く、保険会社側の主張(約4848万円)より約1730万円多い金額です。
| 論点 | ご遺族側の主張 | 保険会社側の主張 | 裁判所の判断 |
| 60〜67歳の収入 | 定年前と同じ年収約752万円 | 平均賃金の約383万円(65歳まで) | 定年前と同じ約752万円 |
| 生活費控除率(給与部分) | 30% | 40% | 30% |
| 年金を計算する期間 | 68〜86歳 | 66〜86歳 | 68〜86歳 |
| 生活費控除率(年金部分) | 30% | 50% | 50% |
| 逸失利益の合計 | 約6835万円 | 約4848万円 | 約6577万円 |
ポイント1:定年後も「同じ収入」が認められた
公立小学校教諭の定年は60歳です。保険会社側は「定年後は収入が下がるはず」と主張しました。
しかし裁判所は、約27年間教職に就き、職場で高い信頼を得ていたことを重視しました。そのうえで67歳まで事故前と同程度の収入を得られた「蓋然性(そうなった可能性が高いこと)」を認めています。定年があるからといって、当然に減額されるわけではないということです。
ポイント2:生活費控除率は「家庭での役割」で決まる
被害者は教諭として働きながら、夫・両親・大学生と予備校生の息子の6人家族で、主婦として家庭を支えていました。裁判所はこの生活状況を踏まえ、控除率を40%ではなく30%としました。
控除率が10ポイント下がると、受け取る金額はその分増えます。本件の67歳までの部分だけでも、約850万円の差が生じます。
ポイント3:年金も逸失利益になる(ただし控除率は高め)
67歳以降は「働いて得る収入」はありませんが、共済年金と老齢基礎年金(年約244万円)を平均余命の86歳まで受け取れたはずだとして、その分も逸失利益に含められました。
ただし、年金は生活費に充てられる割合が高いという性質から、控除率は50%とされました。ここは保険会社側の主張が通った形です。
実際の計算
① 50〜67歳(17年間・給与)
751万9147円 ×(1 − 0.3)× 11.2741 = 5934万0130円
② 68〜86歳(19年間・年金)
244万0400円 ×(1 − 0.5)×(16.5469 − 11.2741)= 643万3870円
合計 6577万4000円
②の係数が引き算になっているのは、「36年分の係数から最初の17年分を差し引く」ことで、18年目以降に受け取る年金だけを計算するためです。
ご遺族が知っておきたいポイント
- 「定年だから減額」は当然ではありません。 勤続年数、職場での評価、再雇用制度などを証拠で示すことで、定年後の収入も高く評価される可能性があります。
- 家庭での役割を具体的に伝えることが大切です。 家計や家事、家業の手伝いなど、故人が家族をどう支えていたかが、生活費控除率を通じて金額に直結します。
- 年金も請求の対象になります。 受給していた(または受給できた)年金の種類と額を確認しましょう。
- 事故の時期で計算が変わります。 民法改正により、令和2年4月1日以降の事故は事故時点の法定利率(同日以降は年3%)で計算します。利率が下がると差し引かれる利息が減るため、逸失利益は増えます。
参考までに、本件と同じ条件を年3%で試算すると、次のとおりです。
| 前提 | 67歳までの給与部分 | 68〜86歳の年金部分 | 合計 |
| 年5%(本件の判決) | 約5934万円 | 約643万円 | 約6577万円 |
| 年3%(試算) | 約6930万円 | 約1057万円 | 約7987万円 |
利率の違いだけで、約1400万円の差が生じる計算です。※試算は他の条件を全て同じと仮定したものです。
まとめ
死亡逸失利益は、「基礎収入」「生活費控除率」「就労可能年数」「係数」の組み合わせで、数百万円から数千万円単位で金額が変わります。本件でも、両者の主張には約2000万円の開きがありました。
保険会社から提示された金額が、故人の働きぶりや家族での役割を正しく反映しているとは限りません。示談に応じる前に、一度弁護士に計算の前提を確認してもらうことをおすすめします。
当事務所では、交通事故でご家族を亡くされた方からのご相談をお受けしています。
参考:東京地裁平成26年11月26日判決(平成25年(ワ)第30414号)、自保ジャーナル1939号108頁



