交通事故解決 川西の弁護士法人 村上・新村法律事務所

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人身事故・危険運転・速度超過

普段は、村上新村法律事務所川西池田オフィスHP(https://kawanishiikeda-law.jp/)にて連載している交通事故犯罪関連ブログですが、番外編として、こちらでも危険運転致死傷罪に関連し、若干。

先ずは、制御困難速度での運転事故についてです。

1 要件

(1)客観的要件は、

ⅰその進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

ⅱよって

ⅲ人を負傷・死亡させること、です。

ⅰについては、以下の点が問題になります。

① 道路状況との関係(千葉地判平成28年1月21日判時2317号138頁)

  本件は、被告人が制限速度時速50kmの一般国道を時速120km程度で走行していたところ、対抗右折車と衝突右折車の運転者を即時死亡させたというものです。この点、裁判所は、事故現場付近の道路はほぼ直線で、被告人が事故現場手前における車線の減少に対応して車線を変更しながら、事故発生までの間、自車の車線を逸脱することなく走行していたとして、危険運転致死傷罪の成立を否定しました(過失運転致死傷罪の成立のみ、懲役6年)。

 裁判所は、危険運転致死傷罪にいう「進行を制御することが困難な高速度」とは「自動車の性能や道路状況等の客観的な事実に照らし、ハンドルやブレーキの操作をわずかにミスしただけでも自動車を道路から逸脱して走行させてしまうように、自動車を的確に走行させることが一般ドライバーの感覚からみて困難と思われる速度をいい、ここでいう道路状況とは、道路の物理的な形状等をいうのであって、他の自動車や歩行者の存在を含まないもの」と判断しました。

つまり、他の走行車両や路外店舗等への進入・退出車両も多くみられる市街地で事故が発生した場合でも、上記判決は「進行を制御することが困難な高速度」の判断として、そのような他の自動車の存在は考慮せず、あくまでも道路の物理的形状のみで判断すべきとしたのです。

② 走行時間との関係(東京高判平成22年9月28日判タ1352号252頁)

  本件は、被告人が自動車を運転し中央が隆起した橋を走行していたところ、自動車が空中に跳ね上がり、続いて着地してから運転制御を失い暴走、ガードレール・電柱に衝突するなどして、同乗者1名を死亡2名に軽傷を負わせたという事案です(制限速度時速60kmのところを時速90kmを相当程度超える速度で走行)。

 裁判所は、危険運転致死傷罪にいう「進行を制御することが困難な高速度」とは「道路の状況に応じて進行することが困難な状態になる速度をいうのであり、走行中の短時間の速度であっても、道路の状況に応じて進行することが困難な状態になれば、これに該当し、相当程度の時間にわたり危険な高速度で走行する必要はないというべきである。」と判断しました(被告人を懲役3年の実刑に処した原審の判断を支持)。

つまり、短時間の高速度運転であっても道路状況次第では危険なこともあるので、そのような場合は危険運転に該当するということです。

③ 運転ミスとの関係

(ア)速度超過の場合、問題になるのは、カーブを曲がる際の限界旋回速度です。一般的には、これを超えないと「進行を制御することが困難な高速度」といえないとされることが多いです。

 例えば、千葉地判平成16年5月7日判タ1159号118頁は、酒気帯びの状態(事故2時間後の呼気濃度0.3mg/Ⅼ)で、制限速度が時速40kmのカーブを、時速約73km ないし84km で走行して対向車線に進入して対向車と衝突し、相手の運転者らを死亡させたという事案において、次の理由から、進行を「制御することが困難な高速度」にはあたらないとの判断をしました(当時の業務上過失致死罪を適用し懲役3年6月の実刑判決)。

・進行制御が問題となったカーブの限界旋回速度が時速86.1km ないし96.8km であった。

・現場を走行する自動車のうち、時速70km ないし83km で走行した普通乗用自動車が1台も対向車線にはみ出さなかったという測定結果があった。

・酒気帯びの点について、アルコールの影響は個人差の極めて大きい事柄であり、またどの程度のアルコールを身体に保有すれば自動車の運転にどの程度の影響があるかを客観的に判定することもできないことなどから、「相当程度の酒気を帯びた者において車両の進行を制御することが困難な高速度がどの程度のものであるかを客観的、類型的に明らかにすることは、ほとんど不可能に近い。

(イ)ちなみに、限界旋回速度を超えなかった場合でも危険運転致死傷罪を認めた例として、東京高判平成22年12月10日判タ1375号246頁を紹介します。

 これは、制限速度50kmのカーブを時速90kmで走行させてセンターオーバーした事案について「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの道路の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度をいうと解される。これを本件についてみると、被告人車の速度は、時速約90キロメートルから100キロメートルという本件カーブの限界旋回速度を超過してはいないが、ほぼそれに近い高速度であったものである。また、本件事故は、被告人車が高速度で本件カーブに進入したことに加えて、わずかにハンドルを右に切りすぎて内小回りとなったことによって発生しているが、このハンドル操作のミスの程度はわずかであり、しかも、本件では飲酒や脇見等の事実もなく、被告人がそのようなミスをしたのは、ひとえに、自車が高速度であったためであると考えられる。加えて、本件カーブを被告人車と同じ方向に進行する48台の車の速度を調査したところ、平均速度は時速約53キロメートルで、最高でも時速約71キロメートルであったのであり(捜査報告書・原審甲22)、被告人車の速度は、指定最高速度はもちろんのこと、他の車両の実勢速度と比較しても相当程度速かったといえる。以上の点にかんがみると、被告人車の速度は、本件カーブの限界旋回速度を超過するものではなかったが、ほぼそれに近い高速度であり、そのような速度での走行を続ければ、ハンドル操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度であったというべきであるから、進行を制御することが困難な高速度に該当すると認められる。」としたものです(被害者3名に傷害を負わせ、被告人を懲役1年6月執行猶予3年に処した原判決を支持)。

(2)主観的要件としては、

上記ⅰ(進行を制御することが困難な高速度で走行)に対応する認識ですが、具体的な内容としては「客観的に速度が速すぎるため道路の状況に応じて車両を進行させることが困難であると判断されるような高速度で走行していることの認識をもって足り、その速度が進行制御が困難な高速度と判断されることの認識までは要しない。」とされています(函館地判平成14年9月17日判タ1108号297頁)。

 上記判決の中では、運転者として「過去に何度も本件カーブを通行した経験から、本件カーブが急であり、本件カーブを通過できる限界速度は時速80キロメートルくらいであると思っていた」にもかかわらず「スピードメーターなどに気を取られ、本件車両が本件カーブに近づいていたことを、その直前になって初めて気付きブレーキをかけたものの、間に合わず」時速100キロメートルのまま走行し事故を起こした点が重視されました(カーブで自車制御不能となり、同乗者を車外放出させ死亡、懲役3年6月の実刑判決)。

2 刑罰・違反点数については、酩酊運転による危険運転致死傷罪と同じです(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/1083)。

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